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患者さん・ご家族等一般の方へ

痛みの治療について知りたい

「医療用麻薬」の誤解

緩和ケアでは、痛みを取り除くことを第一に考えています。
WHO(世界保健機関)は、「痛みに対応しない医師は倫理的に許されない」と述べています。痛みは、取り除くことができる症状であり、そのための緩和ケアを受ける権利は、誰にでもあるのです。

痛みのコントロールでは、しばしば「医療用麻薬」が使われます。医療用麻薬は、がんの痛みにとても有効な薬です。痛みを取るために必要な量には個人差があり、痛みの強さに合わせて、薬の量を増やしたり減らしたり調節しています。しかし、麻薬中毒や依存のイメージから、医療用麻薬を敬遠され、痛みを我慢して過ごしている方も少なくありません。

医療用麻薬は、痛みがある状態で使用すると、中毒や依存にならないことがわかっています。
副作用に対しても、さまざまな薬や対処法が開発され、十分に対応できるようになっています。また、医療用麻薬の種類も増えたことから、一人ひとりの痛みや生活に合わせて薬を選択できるようになっています。
痛みは我慢せず、医師や看護師、薬剤師と話し合い、痛みのコントロールを始めることが大切です。

医療用麻薬を開始するときの気掛かりについて、こちらのマンガ動画もご参照ください。

知っててよかった緩和ケア

医療用麻薬の不安と向き合う - 痛み緩和で生活の質を改善する方法

令和4年度厚生労働省委託事業

家族ががんになったら知っておきたい緩和ケア

医療用麻薬の誤解を解く

令和3年度厚生労働省委託事業

がんの痛みの治療に使われる「医療用麻薬」とは

薬の絵

がんの痛みの治療に用いられる医療用麻薬はモルヒネ、オキシコドン、フェンタニル、ヒドロモルフォンなど、多くの種類があります。また、剤形も錠剤、カプセル剤、粉薬、水薬、貼り薬、坐剤、注射剤など揃っており、種々の痛みに対応できます。
アルコールに対して、強い人、弱い人がいるように、痛みをとるために必要な医療用麻薬の量にも、個人差があります。たとえ飲む量が増えたとしても、それによって中毒を起こしたりすることはありません。

モルヒネ依存とオピオイド受容体の関係

なぜ、医療用麻薬を痛みがある状態で使用しても、中毒や依存にならないのでしょうか?
医療用麻薬の一つであるモルヒネは、身体の中に入ると「オピオイド受容体」に作用して、効果を発揮します。
オピオイド受容体には、μ、δ、κの3種類があり、お互いに影響していますが(表1)、とくに「κ受容体」には、μ、δ受容体の作用を抑制することで、中毒や依存の形成を抑える作用があります。痛みのある状態では、κ神経系が亢進しています。モルヒネを使用すると、μ、δ受容体に作用して痛みがとれ、μ、δ神経系が亢進しますが、κ神経系とのバランスがとれるため、中毒や依存にはなりません(図1A)。一方、痛みのない状態では、モルヒネの使用によりμ、δ神経系が亢進し、κ神経系とのバランスが崩れるため中毒や依存を形成する場合があります(図1B) 。

表1:オピオイド受容体の種類

  • μ(ミュー)受容体:鎮痛作用、多幸感、精神・身体依存形成
  • δ(デルタ)受容体:鎮痛作用、多幸感、精神・身体依存形成
  • κ(カッパ)受容体:鎮痛作用、鎮静作用、嫌悪効果
痛みがある人と痛みがない人のモルヒネ投与時のバランスを比較した図

(鈴木勉. 日医雑誌 122(12):MM-34-36, 1999より一部改変)